東京地方裁判所 平成11年(ワ)7245号 判決
原告 小島きみ
右訴訟代理人弁護士 池谷昇
被告 加藤義友
右訴訟代理人弁護士 末川吉勝
同 法月正志
主文
一 被告は、原告に対し、金四七〇万円及びこれに対する平成一一年五月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一原告の請求
主文第一項と同旨
第二事案の概要
本件は、原告が、伊藤昭一(以下「伊藤」という。)との間において建物等の賃貸借契約を締結し、被告が右賃貸借契約に基づく債務を保証した、そうでないとしても、協新工業株式会社(代表取締役は伊藤。以下「協新工業」という。)との間において建物等の賃貸借契約を締結し、被告が右賃貸借契約に基づく債務を保証したところ、賃料不払を理由に右賃貸借契約を解除したと主張し、被告に対し、主位的に、伊藤との間の賃貸借契約の保証契約に基づき、予備的に、協新工業との間の賃貸借契約の保証契約に基づき、未払賃料と賃料相当損害金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。
一 争いのない事実等(末尾に証拠等を掲記するもの以外は争いがない。)
1 原告は、平成六年八月三〇日、伊藤又は協新工業に対し、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)及びこれに付帯する駐車場を、期間は同年九月一日から平成九年八月三〇日まで、賃料は月額三五万円と定めて賃貸し、本件建物及び右駐車場を引き渡した(右の日に締結された本件建物等の賃貸借契約を、以下「本件賃貸借契約」という。)。
2 本件賃貸借契約は、平成九年八月三〇日の経過により法定更新された(右1の事実、後記4の事実、弁論の全趣旨)。
3 原告は、伊藤又は協新工業に対し、平成一〇年四月二〇日付けの書面により、右書面到達後一〇日以内に平成九年三月分から平成一〇年三月分までの未払賃料三一五万円を支払うよう催告するとともに、右期間内にその支払がないときは、当然に本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし、右書面は遅くとも同年四月二二日に伊藤又は協新工業に到達した(甲四、五、弁論の全趣旨)。
4 伊藤又は協新工業は、平成一一年一月二六日、原告に対し、本件建物を明け渡した。
5 伊藤又は協新工業の平成一〇年一二月分までの未払賃料及び賃料相当損害金の額は少なくとも四七〇万円である。
二 本件の争点
1 本件賃貸借契約における賃借人は誰か
(原告の主張)
(一) 本件賃貸借契約における賃借人は伊藤である。
(1) 本件賃貸借契約の契約書には賃借人として協新工業が表示されているが、賃借人は伊藤個人である。すなわち、伊藤は、平成六年八月当時、個人で配管工事等の営業を行っており、右営業に使用していた貨物自動車(トヨエースGIS。足立四七ち五〇五一号)及び電話(三六一八-四二七三番)は伊藤個人が使用者であり、加入者であった。そして、伊藤が個人として原告に賃料を支払っていた。
(2) また、協新工業は、伊藤の個人企業であり、法人としての実体はなく、法人格は形骸にすぎないから、その法人格は否認されるべきである。すなわち、協新工業は、最後の登記が昭和五六年二月二日の役員就任登記であり、平成八年六月三日付けで法定解散登記がされている。そして、右(1) のような事情があった。
(二) そうでないとすれば、本件賃貸借契約における賃借人は協新工業である。
(被告の認否)
(一) 右(一)の冒頭の事実は否認する。(1) のうち、本件賃貸借契約の契約書には賃借人として協新工業が表示されていることは認め、その余の事実は知らない。(2) の事実は知らない、主張は争う。
(二) 右(二)の事実は認める。
2 被告の保証契約の締結
(原告の主張)
(一) 被告は、本件賃貸借契約締結の日に、原告に対し、賃借人を伊藤とする本件賃貸借契約に基づく債務を保証した。
(二) そうでないとすれば、被告は、本件賃貸借契約締結の日に、原告に対し、賃借人を協新工業とする本件賃貸借契約に基づく債務を保証した。
(被告の認否)
右(一)の事実は否認し、右(二)の事実は認める。
3 被告の保証債務の範囲
(原告の主張等)
(一) 期間の定めのある建物の賃貸借契約において、賃借人のために保証人が賃貸人との間で保証契約を締結した場合には、反対の趣旨を窺わせるような特段の事情がない限り、更新後の賃貸借契約から生じる賃借人の債務についても保証の責めを負う趣旨で保証したものである。本件賃貸借契約は被告の口利きにより締結されたものであり、被告は、本件賃貸借契約締結に当たり、原告に対し、自己が保証するから伊藤に貸してやってくれと述べた。したがって、本件において、保証契約のみ期間を限定する趣旨を窺わせるような特段の事情はない。
(二) 被告主張の後記(一)、(二)の事実は否認し、(三)の主張は争う。
(被告の主張)
(一) 本件賃貸借契約の保証契約は、期間を平成六年九月一日から平成九年八月三〇日までの三年間に限定する趣旨で締結されたものである。すなわち、本件建物は、賃借人が見つからず、空室状態が続いたため、原告が困り果てて、被告に依頼があり、被告が協新工業又は伊藤を賃借人として原告に紹介したのである。被告は、原告の知らない者を賃借人として紹介したことから、原告が賃借人の人柄等を知り得るようになるまでの一時的かつ暫定的趣旨のものと認識し、保証人となったのである。
(二) 被告は、期間経過後の賃貸借契約の継続に当たり、保証人の地位の継続につき、原告から、承諾を求められたことはなく、確認の問合せを受けたこともない。
(三) したがって、被告には、本件賃貸借契約更新後の賃借人の未払賃料及び賃料相当損害金について、保証の責任はない。
第三当裁判所の判断
一 本件賃貸借契約の賃借人について
証拠(甲一、二、五、八、九、一〇の2、一四)及び弁論の全趣旨によれば、本件賃貸借契約の契約書には賃借人として協新工業が表示されていること、しかし、協新工業は、最後の登記が昭和五六年二月二日の役員就任登記であり、その資本金の額が最低資本額に達しなかったため、平成八年六月一日、平成二年法律第六四号附則六条一項の規定により解散したものとみなされたこと、伊藤は、平成六年八月当時、個人で配管工事等の営業を行っており、右営業に使用していた貨物自動車及び電話は伊藤個人が使用者であり、加入者であったこと、本件賃貸借契約の賃料は、伊藤が個人として原告に支払っており、伊藤は、平成一〇年一二月三〇日、原告に対し、同月分までの未払賃料が四七〇万円であることを認め(賃料相当損害金を含む趣旨と認められる。)、その分割弁済を約したことが認められる。
右事実によれば、本件賃貸借契約における賃借人は伊藤であると認められる。
したがって、前記第二の一の3ないし5における賃借人は伊藤であり、伊藤は、原告に対し、平成一〇年一二月分までの未払賃料及び賃料相当損害金として四七〇万円の支払義務を負っているというべきである。
二 被告の保証契約の締結について
被告が伊藤を原告に紹介したことは当事者間に争いがなく、右事実と前記一の事実、証拠(甲一)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件賃貸借契約における賃借人が伊藤であることを認識したうえ、本件賃貸借契約に基づく債務を保証したものと認められる。
三 被告の保証債務の範囲について
期間の定めのある建物の賃貸借契約において、賃借人のために保証人が賃貸人との間で保証契約を締結した場合には、反対の趣旨を窺わせるような特段の事情のない限り、保証人は更新後の賃貸借契約から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを負う趣旨で保証したものと解するのが相当であり、保証人は、賃貸人が保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認められる場合を除き、更新後の賃貸借契約から生じる賃借人の債務についても保証の責任を免れないと解すべきである。
被告は、原告が賃借人(伊藤)の人柄等を知り得るようになるまでの一時的かつ暫定的趣旨のものと認識し、保証人となったのであり、被告の保証契約は、期間を平成六年九月一日から平成九年八月三〇日までの三年間に限定する趣旨で締結されたものであると主張するが、本件賃貸借契約の契約書(甲一)からは、その趣旨を認めることはできないし、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。そうすると、本件において、前記反対の趣旨を窺わせるような特段の事情は認められない。
また、原告が保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認められるような事情を認めるに足りる証拠はない。
したがって、被告は、伊藤の原告に対する前記未払賃料及び賃料相当損害金の債務について、保証の責任を免れない。
第四結論
よって、原告の本訴請求は理由があるから認容する。
(裁判官 丸山昌一)
物件目録
東京都江戸川区平井七丁目一七三四番地一、一七二七番地一、一七三五番地一
家屋番号 一七三四番一の一
木造瓦葺二階建倉庫
床面積 一階 一四八・七三平方メートル
二階 一四八・七三平方メートル
(以上)